オルツ社事件が暴いた「SFA/CRMの死角」——なぜ日本企業の売上データは"半分しか見えていない"のか

オルツの循環取引問題と、それを受けた日証協の新ガイドライン。すでに多くの記事が出ていますが、私はこのニュースを見たとき、これは不正の話ではなく、SFA/CRMやBtoB営業基盤の構造欠陥の話でもあると考えました。
私は過去10年以上SFA/CRM製品の開発、事業立ち上げに関わってきており、2021年には自身で株式会社ハイウェイを共同創業してCRM事業を営んでいます。SFAやCRMを「作る側」として何千社もの営業組織を見てきた人間として、今回の問題が示す課題をプロダクトの観点から書いてみたいと思います。
CRMが映し出す世界は「直販」だけ
SFA/CRMというツールは、もともと「自社の営業担当が、自社の顧客に、直接売る」というプロセスを管理するために設計されています。
営業がどの企業にアプローチし、いつ商談が生まれ、いつ受注に至ったか。この一連のプロセスをデータとして記録し、分析し、改善する——それがSFA/CRMの基本思想です。しかし、日本のBtoBビジネスの現実はどうでしょうか。経済センサスのデータを見ると、日本の商取引の約75%は卸売業(間接流通)を経由しています。私の所属するSaaS業界でも、主要プレイヤーの売上の50〜70%が代理店経由というケースは珍しくありません。つまり、多くの企業にとって売上の過半数は「自社の営業が直接売っていない」取引なのです。にもかかわらず、CRMには直販の案件にフォーカスしているのが実態で、非常に限定的な代理店情報や代理店案件の情報しか入っていないことも多いです。
これは、企業の売上データの半分以上が「クリアに見えていない」状態に等しい。
オルツ事件の本質——「見えない半分」に不正が宿った
オルツの循環取引スキームを振り返ると、構造は驚くほどシンプルです。自社の資金を広告代理店経由で販売パートナーに流し、そのパートナーが自社製品をバルク購入して売上を計上する。三角形の資金循環です。
ここで問いたいのは、「なぜ見抜けなかったのか」ではありません。「なぜ、見える仕組みがなかったのか」です。もしオルツの販売パートナーが、案件ごとにエンドユーザーを登録し、商談プロセスを記録し、利用実態を報告する仕組みの上で動いていたら——売上の9割がわずか3社に集中し、エンドユーザーの利用実態がほぼゼロだったことは、データの時点で異常として浮かび上がったはずです。しかし現実には、パートナー経由の販売は「月次の実績レポート」がExcelで送られてくるだけ。結果の数字は見えても、プロセスは見えない。エンドユーザーが実在するかどうかすら確認する術がない。
これはオルツだけの問題ではありません。パートナービジネスを展開するほぼすべての日本企業が、同じ構造的な盲点を抱えているのではないでしょうか。
「CRMとPRMの分断」こそが問題の根源
多くの企業では、直販はCRM/SFAで管理し、パートナー経由の売上はExcelか、あるいは別のPRMツールで管理しています。この分断が何を意味するか。「自社の売上全体を一つのデータベースで俯瞰できない」ということです。直販の案件はCRM上で商談ステージ、担当者、更新履歴まで細かく追える。しかしパートナー経由の案件は、最終的な数字が月次レポートで届くだけ。同じ「売上」なのに、解像度がまったく違う。この非対称性が、不正の温床になるだけでなく、経営判断そのものを歪めます。パートナー経由の売上が6割を占める企業が、直販の4割だけを精緻に分析して戦略を立てている。
ハイウェイが「AIネイティブCRM」にPRMを統合した理由
私が株式会社ハイウェイを立ち上げたとき、最初から決めていたことがあります。CRMとPRMを別物として作らない、社外も含めた企業のエコシステム全体で使えるレベニューエンジンをつくるということです。
HiwayはAIネイティブCRM/SFAであると同時に、PRM機能をネイティブに内包しています。直販の案件もパートナー経由の案件も、同じプラットフォーム上で、同じデータ構造で、同じ解像度で管理する。
なぜこの設計が重要なのか。まず、取引の透明性という観点。パートナーが案件を登録する際にエンドユーザー情報を入力し、商談プロセスの更新が記録される。この仕組みがCRMと統合されていることで、直販とパートナー経由の案件を同じ基準で異常検知できます。特定パートナーへの売上集中、不自然な受注スピード、エンドユーザーの重複——こうしたシグナルは、データが一元化されていてこそ検出できるものです。
次に、経営判断の精度。売上全体を一つのビューで見られるからこそ、「どのチャネルが効率的か」「どのパートナーが実質的に売上に貢献しているか」「直販とパートナーのバッティングが起きていないか」という分析が初めて意味を持ちます。そして、これからはAIの力でこの解像度をさらに引き上げられると考えています。
"ゼロオペレーション"のPRMが取引透明性を変える
Hiwayの設計思想の根幹は「ゼロオペレーション」——AIエージェントがデータ入力、分析、アラートを担い、人は顧客との対話に集中する、という考え方です。
この思想をPRM領域に適用すると、何が起きるか。
従来のPRMでは、パートナー側の担当者が案件情報を手入力する必要がありました。しかし、忙しい販売パートナーにとって「メーカーのツールにデータを入力する」ことほど優先度の低い作業はありません。結果として、データは入力されず、メーカーは相変わらずパートナーの先が見えない。ツールを導入したのに何も変わらない——これはPRM業界の普遍的な課題です。
AIネイティブなアプローチでは、パートナーとのメール、チャット、通話のコンテキストからAIが案件情報を自動生成・更新します。パートナー側の入力負荷を限りなくゼロに近づけることで、初めて「すべての取引が可視化される」状態が実現できる。
入力負荷がゼロに近づけば、パートナーがデータを入れない理由がなくなる。データが入れば、透明性が生まれる。透明性があれば、不正は構造的に起きにくくなる。
この因果の連鎖を、テクノロジーで設計するのがHiwayのアプローチです。
IPO審査対応ではなく、「BtoB取引基盤の再設計」として
日証協の新ガイドラインは、IPO審査における販売先の実態把握を厳格化する方向です。これ自体は重要な一歩です。
しかしオルツの問題が突きつけたのは、「パートナー経由の取引が見えない」という日本のBtoB商取引全体の構造的課題です。IPO準備企業だけでなく、上場企業も、中堅企業も、パートナービジネスを展開するすべての企業が、この「見えない半分」と向き合う必要がある。
そしてこの課題は、「既存のCRMの横にPRMを足す」という発想では根本的に解決しません。直販もパートナーも含めた売上全体を、一つのデータ基盤で、AIの力を使って、人の手間をかけずに可視化する。
私は長年SFA/CRMの開発に携わり、その限界を知っているからこそ、HiwayではCRMとPRMの統合に取り組んでいます。オルツ事件は不幸な出来事ですが、これを機に「日本ならではのSFA/CRM、ひいてはBtoBの営業取引基盤をどう再設計するか」という観点でよりプロダクト思想をふかめていこうと思います。
パートナービジネスの可視化や、CRMとPRMの統合にご関心のある方は、是非資料請求やトライアル申請、お気軽にご連絡ください。